やはり、世界は進んでいた
でも、勇気が出てきた
はじめに
個人的にも、楽しみにしていた書籍だったのですが、たまたま角谷さんの tweet を見かけて応募し、当選しました。頂いた本は、このあと社内で回し読みし、個人としても電子書籍をお布施として購入させていただきます。
原著はアジャイルサムライの著者で、ちょうど僕がドリコムに入った頃、エンジニアたちがアジャイルサムライの読書会をやっていたのを思い出しました。 アジャイルサムライは、当時のIT企業に属するエンジニアには多大な影響を与えた書籍で、未読の方は、著者の今の主張や時代の流れの比較も興味深いので、アジャイルサムライも読んでみることをオススメします。
著者は主にspotifyでの経験を通して、組織文化をテーマとして語られています。
文章は軽やかで、エンジニアやアジャイルがわかっている方であれば2,3時間ほどで読めます。今回は印象的だったポイントを中心にレビューしていきます。
ユニコーン企業は、スクラムをやっていない
本書では、比較対象としてエンタープライズ企業という表現が出てきますが、訳者のあとがきで、エンタープライズ企業のプロジェクト=ウォーターフォールではなくアジャイル開発であり、「アジャイルVSアジャイルの先にあるもの」という解説があり、本書を読み進めている間はエンタープライズ企業=ウォーターフォールのイメージでいたため、既に自分の経験でしかないバイアスがかかっており世界との差を感じ反省しました。spotifyでは、初期は重要な役割として存在していたもののスクラムマスターがいないそうです。
常々スクラムを実践している中で、チームが本当に自己組織化したとしたらスクラムマスターもいらなくなるのではないか?と考えていましたが、進化したチームはお互いにコーチングし合ったり、チーム自体が高レベルな自浄作用を持っている事になります。
本書ではデリバリーに貢献できるメンバーだけで構成せよと謳っています。
スクワッド
spotifyでの組織モデルの事例として、スクワッドという考え方と、組織をスケールする概念としてトライブという考え方、トライブを構成する要素としてチャプターとギルドの解説がなされています。スクワッドの考え方として真っ先に思い浮かんだのは「スカンクワークス」でした。
スカンクワークスは、イノベーションのジレンマに陥った企業や官僚的な組織の中でイノベーションを生むための手法としてよく話題に出ます。
スカンクワークスに関しての詳細はググったり書籍で深めてもらうとして、スクワッドという手法をコピーしてもなんの解決にもならなく、会社のコンテキストやスクワッドの考え方を抽象化し、現在の組織に当てはめることが必要です。銀の弾などないということですね。
分離されたアーキテクチャ
同じプロダクトでも複数チームで開発・運用を行うために、アーキテクチャから分離して疎な関係を作り、独立したチームを構成しやすくする。昨今のマイクロサービスの考え方と一致します。事例の考え方は非常にシンプルです。
ただ、チームのスケールを踏まえてアーキテクチャーから考えていくことは、エンジニアリングの素養とこれを実行できる強さが必要です。
最初からこれが出来たとしたら天才。途中で変えていくにしても、プロダクトが一時的に現状維持を強いることになる意思決定は相当な胆力が必要だし、これ自分だったら、こういう意思決定し、実行できる自信がありません。
自律、権限、信頼
ユニコーン企業はレベルの高い人材を取捨選択してたからではないか?と考えがちですが真っ向から否定してます。
優秀な人材を雇っているのではなく、「自律、権限、信頼」を通して優秀な人材を作っていると主張していることが意外でした。
どうしても成功している企業にはいい人材が集まりやすいため、レベルの高い組織が成り立っているみたいな見方があります。
著者は、ユニコーン企業に入ってくる人材もそれまでは大企業にいたケースがあると主張しています。
けれども自律を求め、大企業では考えられない権限を与え、その代わりそれとセットで信頼をする。
それが人材のポテンシャルを引き出し、結果的にいい人材が育つという至極当たり前の考え方ではありますが、権限と信頼の多寡は組織文化に大きく依存しているため難しい問題です。
失敗はゲームの一部でしか無い
失敗したら「罰を与える」ような組織は本当に必要な人材の採用に苦労する、そのため失敗してはいけないという思い込みを払拭する。事業や組織がまともに進むようになるまでには、幾度もの失敗や間違いが起こることを理解することが大事。
これも、非常にあるべき考え方であると共感しか無いのですが実行が難しいと思いました。組織が理解することだけでなく、失敗した当人の気質にも依存しますが、まずは組織が失敗に対する姿勢を打ち出さなければいけない始まらない話なんだと思います。
組織のスケール
ベンチャー企業のスケールは、ベンチャー企業が直面する最大の課題の一つと言われています。ベンチャーが成長する上での組織をスケールする際の、典型的な流れをまとめてみました。- 起業した頃は少人数であるため、いわゆる企業の「ミッション、ビジョン、バリュー(以降MVV)」は明文化しなくてもうまくいく事が多い。
- 事業がうまくいき、スケールするにつれ多様な人材がジョインするが、始まりを知らない人材は自分たちの辿ってきた文脈と会社の雰囲気から組織のあり方を解釈していく。
- そうして会社が求める考え方との齟齬が生まれ、もとからいる人と新しく入った人の間に溝が生まれる。
- 会社が大事な人もそうでもない人も、なんかしっくりこないと感じ始め人材が安定しない。
- そうした課題が出て、組織は「MVV」やそれに相当するものを定義する。
- 「MVV」を通して、組織文化の再構築を試みる。
ここからが、おそらく「スタートアップのような働き方をしながら、企業規模をスケールしたい」の分水嶺です。
本書でもトライブの原則が記載されているのですが、これも組織の思想に依存すると思います。
大事なのは、組織文化の浸透には根気と時間が必要なことで、これは楽天の野村監督がよく言っていた「種を巻き、花が咲くのに時間がかかる」に通ずるものがあると感じました。
文化の重要性「文化が先か、結果が先か」
会社は結果が全てです。結果が出ていなければ継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)が崩れます。この結果を出すために、中長期的にみたら非効率であったり、非合理的な判断で結果を出さなければいけないことが存在します。
僕がプロデューサや事業責任者などの経験をしていなかった時代には、組織が「どうして非効率な判断をするのか?」、「どうして非合理的な判断をするのか?」などと野党根性のような考えを持っていました。
その考えは甘く、実際に事業の責任者という経験を通して、ミッションや目的に対して向き合いながらも、想像を超える変数が存在することを目の当たりにしました。
意志決定の影響度への不安、事業の組織内での位置づけ、組織の状態、組織文化、自分自身の評価、上司との考え方との相性など、特に日本の企業ではこういった本質的ではない変数が現れやすく、実際に短期的でしかない判断もしてきました。
改めて本書から感じたことは、組織の文化や組織がどうありたいかが重要で結果は水もの、いいときもあるし良くないときもある。そして、文化は勝手に育つものではなく、ユニコーン企業は文化を重要な役割として投資しており、本質的ではない変数で日和って短期的な意思決定をしてはいけない、ということです。
この本から得たこと
- 自分たちが悩んでいることは、世界を見渡せばすでに解決されている「世界は進んでいる」ということを改めて認識した
- 見本があるということは高速道路に乗ってショートカットが出来るし、解決できない問題はない「勇気が出てくる」
- 文化が先であり、結果はあとからついてくることを信じて生きていく