2019/4/24 時点のレポート* に基づくと、Facebook の MAU は 24億弱にのぼる。
*Facebook Reports First Quarter 2019 Results

つい先日、 Facebook からは Calibra という子会社と、その Calibra の主要プロダクトである Libra という暗号通貨の詳細が公開された。
これは Facebook という 24億の人口が居住する 仮想国家に流通する通貨となりうる。

24億という数字は、世界で最も人口の多い国である中国とインドの総人口を足してようやく追い越せる数字であり、その規模は既存のありとあらゆる仮想通貨経済圏にとっては当然、脅威でもある。

libra.org が公開するドキュメント* には Libra という通貨のミッションがこう記してある。

“Libra’s mission is to enable a simple global currency and financial infrastructure that empowers billions of people.”
*libra.org | white-paper

国境を跨いで利用でき、銀行口座を持たないユーザの資産が仮想化されその価値を行使できる。
シンプルで強力な通貨だ。

弊社、ドリコムでは 2018/5/23 に「定款一部変更に関するお知らせ」*1 として定款に仮想通貨交換業などを含む仮想通貨に関する事業目的を複数追加している。
実際にブロックチェーンを利用した LoveChain*2 というサービスの開発とリリースもしているため、もちろん今回のニュースも他山の石ではない。
*1定款一部変更に関するお知らせ
*2LoveChain

本稿では Libra を取り巻く業界予測は一旦置いておいて、LoveChain を開発したエンジニアである @ogwmtnr から Libra の技術的な概要と今後の期待について意見を得たので以下に共有したい。


Libra 公式では自身のブロックチェーンを「分散型のプログラム可能データベース」と題しており、Move という言語を使って Libra ブロックチェーン上で動作するプログラム、即ちスマートコントラクトが実装できるようになっている。
Move は Rust ライクな言語で、コンパイラを通すと Move VM が理解可能なバイトコードを生成する。
この構成は Ethereum における Solidity に近い。

libra.org の公開資料の中では BitCoin や Ethereum にも言及されており*1 、柔軟性を持ちつつ堅牢な設計となっていることも見て取れた。
Solidity と Rust を学習済みであれば、Move を利用したスマートコントラクト開発はすぐに始められるだろう。
OSS である Libra クライアント*2 も Rust を利用している。
*1Move: A Language With Programmable Resources
*2github.com | libra

Libra ブロックチェーンは Libra 協会に所属する団体のみがブロックを生成することが可能なコンソーシアムチェーンであり、コンセンサスアルゴリズムには LibraBFT* というアルゴリズムを開発、採用している。
*The Libra Blockchain

LibraBFT の BFT (ビザンチン・フォールト・トレラント性) とは「複数の合意形成における耐障害性」のようなもので、Libra に不正なノードが存在しても、全体として期待通りに動作する性能を有していることを意味している。
BFT の名称の元になったビザンチン将軍問題や、実践的な BFT アルゴリズムについては下記のページを参照されたい。

ビザンチン将軍問題
PBFT

コンソーシアム + LibraBFT では、 BitCoin や Ethereum などの従来のパブリックチェーンに対してトランザクション承認の高速化が予測される。
速度向上という意味ではアプリケーション上の UX の観点でも、ブロックチェーン特有の待ち時間が短縮されるため、 Ethereum DApps と比較した優位性が見込まれる。
Libra とは異なるコンソーシアム型のブロックチェーンプラットフォームに LINK Chain というものがある。
LINK Chain も高速さを謳っており、 1ノードあたり毎秒1000トランザクションを処理できるとされ* 、LinkChain と類似する構成を持つ コンソーシアム + LibraBFT においても同様のスピードが期待できる。
*LINK whitepaper

Move によるスマートコントラクト開発は堅牢なシステムに寄与し、高速なトランザクション承認は体感の良い DApps の提供を実現するため、さらに面白くてワクワクする DApps が数多く生まれるのではないかという期待が高まっている。
@ogwmtnr


なお、今回のニュースに伴い、 @ogwmtnr による Libra テストネットクライアントが動作する docker image が公開された。
https://hub.docker.com/r/ogawamitsunori/libra_testnet (7.65GB)

動作させるまでの手順は下記の通りだ。

$ docker pull ogawamitsunori/libra_testnet
$ docker run -it -d --name libra_testnet ogawamitsunori/libra_testnet
$ docker exec -it libra_testnet /bin/bash
$ su - libra_tester
$ cd libra
$ ./scripts/cli/start_cli_testnet.sh

発明を追い求める企業のいち技術者として、 Libra の登場は純粋にワクワクするものだ。
しかしブロックチェーンや暗号資産も例に漏れずその潮流は早いため、継続的なキャッチアップに暇がない。

一方、暗号通貨プラットフォームの観点で今後を見据えると、暗号通貨も現実の通貨と同じく、その価値を上げるためにはただ造幣すればよいというものではない。
価値を上げるための打ち手としては、通貨の利便性を向上し流通機会を増やすことがまず想像できる。
交換可能な手段を増やす、利用可能な店舗やサービスを拡大する・・・
Libra が流通し、広く使われる世界を実現するための今後の Facebook 及び Calibra の動向が気になるところだ。

*当記事はドリコム社内の有識者や関連業務に携わる従業員に Libra についてヒアリングし、記事として落とし込んだものです


本稿執筆にあたっての参考リンク

libra.org
やまとは国のまほろば | Facebookが発表した仮想通貨「Libra」について、性能や参加企業まとめ
Blockchain Biz | コンソーシアム型ブロックチェーンで使用できる合意形成アルゴリズム「PBFT」
cnet japan | LINEが明かす「トークンエコノミー」の全貌–グルメや旅など5つの“dApp”サービス
LINK | faq
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